§E9.35Polish 空間と標準 Borel 空間

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関数や無限列を一つの点とみなすと、測度論の対象となる空間は有限次元の範囲を越える。こうした空間の極限と可測集合を統一的に扱うためには、距離の完備性と可算な近似の両方が重要になる。Polish 空間は、この二つを備えた基本的なクラスであり、Euclid 空間や可分 Hilbert 空間、一様ノルムを備えた有界閉区間上の実数値連続関数空間を含む。これらの空間の Borel 集合に着目することで、位相を指定せずに可測構造を扱う標準 Borel 空間へ視点を移すことができる。本記事では、Polish 空間の構成と例、および標準 Borel 空間との関係を扱う。

1 Polish 空間と可算基底

定義 1.1. 位相空間XXが Polish 空間 (Polish space) であるとは、XXが可分であり、XXの位相を定める完備な距離が存在することをいう。

命題 1.2.XXを Polish 空間、ddをその位相を定める距離、DDをXXの可算な稠密部分集合とする。族

{Bd(a,r)∣a∈D, r∈Q, r>0}\{B_d(a,r)\mid a\in D,\ r\in\Q,\ r>0\}

はXXの可算基底である。

証明.U⊆XU\subseteq Xを開集合、x∈Ux\in Uとし、Bd(x,ε)⊆UB_d(x,\ep)\subseteq Uを満たすε>0\ep>0を取る。稠密性からd(x,a)<ε/3d(x,a)<\ep/3を満たすa∈Da\in Dを取り、

d(x,a)<r<ε−d(x,a)d(x,a)<r<\ep-d(x,a)

を満たす正の有理数rrを取る。三角不等式からx∈Bd(a,r)⊆Bd(x,ε)⊆Ux\in B_d(a,r)\subseteq B_d(x,\ep)\subseteq Uである。DDと正の有理数全体は可算であるから、この基底は可算である。X=∅X=\emptysetの場合には空の族が基底である。▨

2 可算積

命題 2.1. 各n∈N≥1n\in\NNに対してXnX_nを空でない Polish 空間、dnd_nをその位相を定める完備距離とする。積X=∏n∈N≥1XnX=\prod_{n\in\NN}X_n上の関数

d(x,y)=∑n=1∞2−nmin⁡{1,dn(xn,yn)}d(x,y)=\sum_{n=1}^{\infty}2^{-n}\min\{1,d_n(x_n,y_n)\}

は積位相を定める完備距離である。XXは可分であり、したがって Polish 空間である。因子の一つが空の場合にも、積は空の Polish 空間である。

証明.min⁡{1,s+t}≤min⁡{1,s}+min⁡{1,t}\min\{1,s+t\}\leq\min\{1,s\}+\min\{1,t\}を各成分へ適用すると三角不等式が得られる。非負性と対称性は各dnd_nから従い、d(x,y)=0d(x,y)=0ならば全成分が等しい。

x∈Xx\in Xとε>0\ep>0を取り、∑n>N2−n<ε/2\sum_{n>N}2^{-n}<\ep/2を満たすNNを取る。最初のNN成分でdn(xn,yn)<ε/2d_n(x_n,y_n)<\ep/2を課す積位相の近傍はBd(x,ε)B_d(x,\ep)に含まれる。逆に、有限集合I⊆N≥1I\subseteq\NNと正数rnr_nによる条件dn(xn,yn)<rnd_n(x_n,y_n)<r_nを考える。I≠∅I\ne\emptysetの場合には

0<δ<min⁡n∈I2−nmin⁡{1,rn}0<\delta<\min_{n\in I}2^{-n}\min\{1,r_n\}

とすれば、d(x,y)<δd(x,y)<\deltaから全条件が従う。I=∅I=\emptysetの場合の近傍はXX全体である。したがって二つの位相は一致する。

(x(k))k∈N≥1(x^{(k)})_{k\in\NN}をddに関する Cauchy 列とする。固定したnnと0<η<10<\eta<1に対し、d(x(k),x(ℓ))<2−nηd(x^{(k)},x^{(\ell)})<2^{-n}\etaならばdn(xn(k),xn(ℓ))<ηd_n(x_n^{(k)},x_n^{(\ell)})<\etaである。各成分列は Cauchy 列であり、完備性からxn(k)→xn∈Xnx_n^{(k)}\to x_n\in X_nとなる。x=(xn)x=(x_n)とする。ε>0\ep>0に対して先のNNを取り、最初のNN成分の収束を用いれば、十分大きいkkで

d(x(k),x)<∑n=1N2−nε2+∑n>N2−n<εd(x^{(k)},x)<\sum_{n=1}^N2^{-n}\frac{\ep}{2}+\sum_{n>N}2^{-n}<\ep

である。よってddは完備である。

各XnX_nに可算な稠密集合DnD_nと点an∈Dna_n\in D_nを取る。あるN∈N≥0N\in\Nが存在して、n≤Nn\leq Nならばxn∈Dnx_n\in D_n、n>Nn>Nならばxn=anx_n=a_nとなる点xx全体は可算集合である。積位相の基本開集合は有限個の成分だけを制限するので、この可算集合は各空でない基本開集合と交わる。よってXXは可分である。▨

3 代表的な空間

例 3.1. 任意のm∈N≥1m\in\NNに対し、Euclid 空間Rm\R^mは Polish 空間である。Euclid 距離の完備性は§E2.5 命題 4.2により、可分性は可算集合Qm\Q^mの稠密性から従う。

例 3.2. 実数体または複素数体上の可分 Hilbert 空間HHは、ノルム位相に関して Polish 空間である。距離d(x,y)=∥x−y∥d(x,y)=\|x-y\|はノルム位相を定め、Hilbert 空間の定義に含まれる完備性を満たす。

例 3.3.C([0,1],R)C([0,1],\R)に一様ノルム∥f∥∞=sup⁡t∈[0,1]∣f(t)∣\|f\|_\infty=\sup_{t\in[0,1]}|f(t)|を入れると、Polish 空間になる。完備性は§E2.5 系 5.6による。

可分性には、節点0,1/N,…,10,1/N,\ldots,1で有理数値を取り、各隣接節点の間で線形である関数全体を用いる。N∈N≥1N\in\NNと有限個の有理数値の選択で定まるため、この集合は可算である。f∈C([0,1],R)f\in C([0,1],\R)とε>0\ep>0を取る。§E2.9 定理 5.1から、∣s−t∣≤1/N|s-t|\leq1/Nならば∣f(s)−f(t)∣<ε/2|f(s)-f(t)|<\ep/2となるNNを取り、各節点で∣qj−f(j/N)∣<ε/2|q_j-f(j/N)|<\ep/2を満たすqj∈Qq_j\in\Qを取る。線形補間した関数ggは、t∈[j/N,(j+1)/N]t\in[j/N,(j+1)/N]で両端の値の凸結合になる。両端それぞれのffの値とf(t)f(t)との差はε/2\ep/2未満であるから、∣g(t)−f(t)∣<ε|g(t)-f(t)|<\epである。したがって、この可算集合は一様ノルムについて稠密である。

4 標準 Borel 空間

定義 4.1. 可測空間(S,Σ)(S,\Sigma)が 標準 Borel 空間 (standard Borel space) であるとは、Polish 空間XXと全単射h:S→Xh:S\to Xが存在し、hhとh−1h^{-1}がそれぞれΣ\Sigmaと Borel σ-代数B(X)\mathcal B(X)に関して可測であることをいう。

例 4.2. Polish 空間XXの Borel 可測空間(X,B(X))(X,\mathcal B(X))は標準 Borel 空間である。定義の全単射には恒等写像を取ることができる。したがって、Rm\R^m、可分 Hilbert 空間、および一様ノルムを備えたC([0,1],R)C([0,1],\R)の Borel 可測空間はいずれも標準 Borel 空間である。

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